産卵
木の枝に産みつけられる大きな白い卵塊は、実物を初めて見たときは本当に驚いた。
それまでテレビの映像では見たことがあったが、もっと小さく、泡も柔らかいものだと思っていた。
産みつけた直後から泡はかなりの粘度があり(スポンジケーキ程度)、表面が固くなってからは、中華饅頭くらいの硬さになる。
下に止水がある枝に産みつけるのだが、正確には、枝ではなく、枝についた葉っぱに粘着させるようにして産む。枝では接触面積が得られず、すぐに落ちてしまうからだ。
松の枝に産みつけられた卵塊は、強風で枝先ごとよく落ちている。
また、止水の上に出ている葉っぱつきの枝という条件は極めてシビアなので、田圃の畦の草むらに絡めるようにして産んだり、池や沼の縁に産みつけている例もある。

モリアオガエルの聖地・福島県の平伏沼↑
枝からたくさん卵塊がぶら下がっている

今はこの卵塊の真下はぎりぎりなんとかなりそうだが、これ以上水が減って水際が後退すると、落ちたところが地面でそのまま死ぬ

2010/06/10 平伏沼にて

上のモリアオガエル。水の中で自由な格好をしている

田圃の縁に産みつけられたモリアオガエルの卵塊↑

上の写真を拡大↑

↑どういうつもりか、国道の上に産みつけられた卵塊

このU字溝に水が流れていたときに産んだのだろうか?↑

このままでは100%死んでしまうので、救出↑
その後、わが家の池で無事に育っていった

田圃の縁の草むらに産みつけられた卵↑
モリアオガエルの卵塊は、シュレーゲルアオガエルの卵塊に比べると、大きくて丈夫にできている。
とはいえ、高温の日が続き直射日光が当たると、たちまち内部まで乾ききり、卵は死滅する。
モリアオガエルの卵にとっていちばんの敵は太陽光、その次は強風だ。
風に飛ばされて落下した地点が土の上だと、完全にアウトである。水の上に落ちれば、まだそのままじわじわと溶ける間にオタマになって生き延びる可能性がある。
田圃の縁(の草むら)などに産みつけられた卵塊は、オタマになったとき、下が地面である。しかし、すぐそばに水があれば、しっかり育ったオタマなら、身体をよじらせるようにしてジャンプし、水をめざす。そのくらいモリアオガエルのオタマは強い。
卵塊の中で十分にオタマとして成熟してから外に出たほうが生き延びる確率は上がる。
水に落ちたオタマは、ものすごい勢いで泳ぎだし、安全な場所を求める。水底まで一気に潜り、次に水面へ顔を出して、自分が落ちた場所の水深を計測する。
水に落ちてからの数分間が、オタマにとってはいちばん危険な、生死を分ける時間だ。このときを待って、アカハラ(ニホンイモリ)などが待ちかまえている。一足先に数センチにまで成長したアカガエルのオタマなども、植物性から動物性の餌に切り替わる時期で、小さなオタマは食べてしまう。
しかし、オタマの大きさも運動能力も成長速度も、モリアオガエルはシュレよりずっと上回っており、孵化した後の生存率はシュレより高いと思われる。
逆に言えば、モリアオガエルのオタマを見ていると、シュレのひ弱さ、デリケートさが際だってくるのだ。
救出卵塊の「半人工孵化」でも、モリアオのほうがシュレよりずっと楽だ。卵がしっかりしているために、保管がしやすい。ときどき霧吹きで湿気を与えておけば、ほぼ間違いなくきれいに孵化してくれる。
シュレーゲルアオガエルの卵塊は形がすぐに崩れるし、乾燥しやすいので、とても難しい。水に入れて(浮かべて)おくと溶けてしまうし、水のない場所に置くには、元の形がかなりしっかり留まっていないと難しい。

左がモリアオガエル、右はニホンアマガエル
変態
変態直後のモリアオガエルの子は、1日ほど低木の草の上などでぼーっとしている。このときが唯一の撮影チャンスで、この後はすぐに森の奥深くへと移動してしまう。そこから先は、3年後、産卵のために戻ってこない限りはまず目にすることはできない。そのへんが他のカエルとは違うところだ。
変態直後のモリアオガエルの子は小振り(1年くらい)のアマガエルほどの大きさだが、アマガエルの子とはまったく大きさが違う。オタマジャクシの大きさはあまり変わらないのに、変態後の大きさが違うというのは面白い。